新 チャリポタの自転車探訪記
■山中鹿介探訪記(11)
ふたたび二人が出会ったのは、幸盛が故郷を奪還するために
日本海から出雲へ上陸してきた時でした。
久家は、いの一番に駆けつけて幸盛を喜ばせました。
幸盛は、久家を軍参謀として重用いたしましたが、
しだいに形勢不利となっていきます。
久家は、毛利軍に再び寝返ることを決意し
幸盛だけにそのことを打ち明けます。
「明日からは敵同士。そうなればお互い死力をつくそうぞ。」
と幸盛は久家とわかれの盃を交わしてくれたのです。
幸盛の懐の大きさに感じ入る久家でしたが、
何か思い出したよう突然ききます。
「富田川の一騎打ちでのおぬしの向こう脛の傷は
わざと付けた物ではないのか。」
久家は、幸盛ほどの強者が敵においそれと
切られるとは今だに信じられなかったのです。
「わざとではないが、名誉の傷はあっても
悪くないとは思って戦った。」
久家と幸盛は目を合わせて笑いました。
それ以来、ふたりは会うことはありませんでしたが、
久家は幸盛の傷の話は誰にも話さなかったので、
ふたりだけの秘密となったのでした。
終わり
イラスト・文/チャリポタ